『謎の訪問者』
・所要時間約12分
・登場人物
サラリーマン(♂)…大手企業に務める30歳。ブラック企業な上にプライベートでも上手くいかず、自殺を考えている。
謎の男…本当に謎の男。見た目はサラリーマンと同じくらい。
回想の男友達(♂)…謎の男をやる人が担当してください。
サラリーマンが疲れた面持ちで仕事から帰宅する。
サラリーマン「…はぁ……また終電で帰ってきてしまった……。」
鍵を開けて部屋に入る。
サラリーマン「ただいまぁ…。」
間
サラリーマン「…まぁ、誰もいないんですけど。」
謎の男「(威風堂々と)おかえり。」
間
サラリーマン「……は?」
謎の男「(優しく)おかえり。」
サラリーマン「マジかよ…。」
謎の男「ん?」
サラリーマン「出てけ!!!泥棒!!!」
謎の男「おおお!待て待て!」
サラリーマン「待たねぇよ!」
謎の男「お願い待って〜」
サラリーマン「待たねぇって!」
謎の男「落ち着いて!」
サラリーマン「そうだな。落ち着いて。」
謎の男「うんうん。」
サラリーマン「えーとこういう時は…何番だ〜?」
謎の男「110番だな!」
サラリーマン「よし。」
110番する。
サラリーマン「あ、もしもし。」
謎の男「って!わぁああああ!!!」
サラリーマン「なんか変な人が…。」
謎の男「(スマホを奪い)すみません。間違い電話です。」
謎の男電話を切る。
サラリーマン「おい!なにすんだよ!」
謎の男「落ち着けって。聞けばわかる。」
サラリーマン「は?」
謎の男「俺だよ。俺。」
サラリーマン「いや、分からん。」
謎の男「俺さ。俺、俺。」
サラリーマン「…110番っと。」
謎の男「ぎゃーーー!!!お願い110番だけは!!!」
サラリーマン「だから!なんなんだよ。お前!」
謎の男「いや〜それは〜」
サラリーマン「言えないんだろ?」
謎の男「まあ、はい。」
サラリーマン「で、なんで鍵のかかった部屋にいるの?」
謎の男「それは〜ほら。するりと…。」
サラリーマン「不法侵入だよな?」
謎の男「まぁ、(照れくさそうに)ええ、そうっすね。」
サラリーマン「そうっすね、じゃねーよな?」
謎の男「まあ、まあ。落ち着いて。これでも…。」
謎の男、懐から何かを取り出そうとする。
サラリーマン「おいおい…勘弁してくれよ。」
謎の男「ん?」
サラリーマン「ほら、あれだろ?凶器とか取り出して、金出せーーー!って。」
謎の男「違うって〜」
サラリーマン「殺すなら殺せよ!」
謎の男「そう言わずに!ほら!」
謎の男、栄養バーを取り出す。
サラリーマン「は?…栄養バー?」
謎の男「そうそう。最近、何も食ってないでしょ?」
サラリーマン「なんで知ってんだよ。」
謎の男「まあ、食えって。」
サラリーマン「(恐る恐る)お、おう…。」
サラリーマン、栄養バーを食べる。
サラリーマン「…うめぇな。」
謎の男「でしょ?最近のは美味いよなあ。」
サラリーマン「……。」
謎の男「ま、座れって。」
サラリーマン「ここ俺んちなんだけど。」
謎の男「まあ、まあ。ほら!」
サラリーマン「…おう。」
サラリーマンなんとなく座ってしまう。
謎の男「とりあえず俺の話を聞いてくれ。」
サラリーマン「分かったよ。諦めるから話せよ。」
謎の男「おう!ありがとう!」
間
謎の男「エイヒレは、ライターで炙る派?」
間
サラリーマン「は?」
謎の男「いやあ!実はあれライターで炙るとオイル臭くてうめぇのよ!」
サラリーマン「…は?」
謎の男「俺が小学生の時、編み出した秘伝の技なんだけどさ〜」
サラリーマン「ずいぶんと渋い小学生だな。」
謎の男「やっぱエイヒレは最高でさ、あの筋感と磯の香りが炙ることによって香ばしくなるわけ。」
間
サラリーマン「……で?」
謎の男「おわり。」
サラリーマン「は?」
謎の男「おわりだね。」
サラリーマン「出てってください。」
謎の男「え!?」
サラリーマン「早急に。」
謎の男「えええ!そう言わずに〜」
サラリーマン「もう充分付き合ったぞ。どこぞの奴か分からん変出者に。」
謎の男「変出者ぁ!?ひどいよ〜」
サラリーマン「いや、変出者でしょ。」
謎の男「どこが!あやしいの!」
サラリーマン「全部。」
謎の男「なんと。」
サラリーマン「はい。出てってください。今すぐに。」
謎の男「わかった!わかったから最後に!」
サラリーマン「なに?」
謎の男「ホクロってエロいと思わない?」
サラリーマン「はい。強制終了でーす。さよなら〜」
謎の男出ていかずに、ニヤニヤしている。
サラリーマン「出ていかないんかい。そして、なんだよ。そのニヤけた顔は。」
謎の男「いやさ。良かったなって思って。」
サラリーマン「なにが?」
謎の男「イキイキしてるよ。」
サラリーマン「は?俺が。」
謎の男「そうそう。」
サラリーマン「どこが?」
謎の男「全体的に!」
サラリーマン「嘘だろ。」
謎の男「嘘じゃないよ。なんだかんだ楽しそう。」
サラリーマン「…そうか?」
謎の男「仕事してる時とか1人で部屋でいる時よりは、いい顔してるよ。」
サラリーマン「だから、なんで知ってんだよ。」
謎の男「分からないか〜」
サラリーマン「なにがだよ。」
謎の男「分からないよな〜」
サラリーマン「なんだよ。言えよ。」
謎の男「気付くまで待っちゃう♥」
サラリーマン「気持ち悪いな。」
謎の男「まあ、とにかく今は言えないってわけ。」
サラリーマン「はあ…。」
謎の男「俺のことなんかよりさ!お前のこと話してくれよ。」
サラリーマン「え?俺のこと?」
謎の男「そうそう。」
サラリーマン「なんでだよ。」
謎の男「いいからいいから。聞きたいんだよ!」
サラリーマン「はぁ…。」
謎の男「頼むよ〜!一生のお願い!」
サラリーマン「わ、分かったよ。そうだなぁ。」
間
サラリーマン「最近は、朝5時に起きて仕事行って深夜1時に帰ってきて寝て。また仕事行って…。」
謎の男「(遮る)ストップストップ!」
サラリーマン「なんだよ。」
謎の男「違うよ。もっと楽しいこと。」
サラリーマン「楽しいこと?」
謎の男「そう!」
サラリーマン「ねぇよ。そんなの。」
謎の男「今じゃなくてもいいよ。昔のことでも!」
サラリーマン「昔か…。」
間
サラリーマン「中学の時に仲良かった男友達がいたんだけどさ。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
回想
中学の時のサラリーマン。
男友達がライターをカチカチしているのを見つける。
サラリーマン「!?おい!お前何やってんだよ!」
男友達「おう!」
サラリーマン「おう!じゃねーよ!ライターで何してんだって言ってるんだよ。」
男友達「これ?」
サラリーマン「お前、まさかタバコ吸ってんじゃねーだろーな。」
男友達「まさか!吸ってないよ!」
サラリーマン「…そっか…ごめんカッとなって。」
男友達「いや!全然!」
サラリーマン「なんか最近ダメだな俺。」
男友達「そうか?」
サラリーマン「勉強も部活も進路のこともなんも上手くいってねーよ。」
男友達「最近、お前元気なかったもんな。」
サラリーマン「あぁ。」
男友達「そうだなあ。」
間
男友達「なんとかなるさ。」
サラリーマン「え?」
男友達「なんとかなるし、お前は何とかしようとしてる。」
サラリーマン「……。」
男友達「何とかしようとしてる人は、なんとかなるんだよ。」
サラリーマン「いいこと言ってるようで同じこと言ってんぞ。」
男友達「うるせーなぁ〜」
サラリーマン「うるさくねーし!」
男友達「うるさいでーす!」
サラリーマン「やんのかオラ!」
男友達「あ、ごめん!俺そういう趣味なくて…。」
サラリーマン「なんで、そうなるんだよ。」
間
男友達「ほら!」
サラリーマン「え?」
男友達「いま楽しそうじゃん。」
サラリーマン「あ。」
男友達「こうやって、なんとかなってる瞬間を重ねていけば、人生なんとかなるんだよ。」
サラリーマン「おお…。」
男友達「いいこと言うだろ?俺。」
サラリーマン「自分で言うなよな〜」
お互い笑いながら帰路に着く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
回想終わり。
再びサラリーマンの部屋。
謎の男「へぇ。そんなことがあったんだ。」
サラリーマン「ああ。いいやつだったんだよなあ。」
謎の男「だった?」
サラリーマン「過去形だよ。過去形。」
謎の男「さすがに俺でもそれは分かる。」
間
サラリーマン「死んじまったんだよ。そいつ。」
謎の男「……。」
サラリーマン「高校3年の冬にさ。自殺だった。」
謎の男「…そっかあ。」
サラリーマン「中学の時の同級生だったんだけど、高校は別のところ行ったんだよ。」
謎の男「うん。」
サラリーマン「だから、中学の時以来会ってなかったんだよなあ。」
謎の男「それは、心残りだね。」
サラリーマン「そうなんだよ。最後に会ってちゃんと話出来てさ。」
謎の男「うん。」
サラリーマン「なんなら、俺が止められたらなあって思ったりもしたよ。」
謎の男「そっかあ。」
サラリーマン「やっぱり会っときゃ良かったな。」
謎の男「なんで会わなかったの?」
サラリーマン「んー。なんでだろ。なんとなく疎遠になったって感じ。」
謎の男「まあ、高校違えばそうなるか。」
サラリーマン「そう。それもあったし向こうがかなり忙しそうでさ。なんか声かけづらかったんだよな。」
謎の男「そっか。悲しいな。」
サラリーマン「そうだな。」
間
サラリーマン「悪いな。楽しい話をって言ったのに。」
謎の男「いや、いいんだよ。昔のことを思い出すのも悪くないしな。」
サラリーマン「そうかもな。なんか懐かしい気持ちになった。」
謎の男「うんうん。ノスタルジーだね。」
間
サラリーマン「でさ。」
謎の男「ん?」
サラリーマン「いつ帰るのお前。」
謎の男「え!?」
サラリーマン「え!?じゃないだろ。不法侵入男。」
謎の男「おいおい。ここまで仲深めといて、そりゃないぜ。」
サラリーマン「別に深まってないだろ。」
謎の男「つれねぇなあ!俺とお前の仲だろ〜」
サラリーマン「なんの仲だよ。」
謎の男「マブダチってやつ?」
サラリーマン「いや、いつなった?マブダチに?」
謎の男「ホクロについて熱く語り合っただろ〜?」
サラリーマン「ホクロについては語り出す前に止めたけどな。」
謎の男「そうだっけ?」
サラリーマン「そうだよ。」
謎の男「じゃあ語り合うか。」
サラリーマン「やだよ。」
謎の男「どこのホクロが好き?」
間
サラリーマン「内もも…かな。」
謎の男「よっ!スケベ!」
サラリーマン「言わせるなよ。そして、スケベじゃねぇ。」
謎の男「内ももは、えっちだろ〜」
サラリーマン「うるせぇなあ!」
謎の男「俺は、やっぱり胸元かなあ。」
サラリーマン「お前もスケベじゃねぇか。」
謎の男「エロは世界を救うよ。あんちゃん。」
サラリーマン「うん。それは確かにな。あと、あんちゃんって言うな。おめぇの兄貴じゃねぇ。」
謎の男「だって俺ら、兄弟以上に歳離れてるぜ?」
サラリーマン「は?そんな見た目じゃないだろ。」
謎の男「そう見える?」
サラリーマン「お前、何歳?」
謎の男「な・い・しょ♥」
サラリーマン「うっざあ。」
謎の男「うざくない♥ダーリン♥」
サラリーマン「気持ち悪い。」
謎の男「ノリだろ?ノリ!」
サラリーマン「いらねぇよぉ。」
間
謎の男「なあ。」
サラリーマン「なんだよ。」
謎の男「やめようぜ。」
サラリーマン「え?」
謎の男「自殺するの。」
サラリーマン「……。」
謎の男「だめだよ。死んじゃ。」
サラリーマン「…なんでわかるんだよ。」
謎の男「わかるよ。」
サラリーマン「……。」
謎の男「俺がそうだったからさ。」
サラリーマン「お前……。」
謎の男「(遮るように)俺はさ。やめられなかったから。」
サラリーマン「……。」
謎の男「あの時は死ぬしかなかったんだよ。」
サラリーマン「……。」
謎の男「でも、お前には死んで欲しくない。」
サラリーマン「…ごめんな。」
謎の男「ん?」
サラリーマン「お前のこと止められなくて。」
謎の男「…いいんだよ。俺は、もう終わったことだからさ。」
サラリーマン「……。」
謎の男「でも、お前には未来があるから。」
サラリーマン「……。」
謎の男「まだ引き返せる。」
間
謎の男「なんとかなるさ。」
間
サラリーマン「ありがとう。」
間
謎の男「じゃ、俺行くわ。」
サラリーマン「おう…。また来てくれよ。」
謎の男「そうだなあ。もう来なくても大丈夫だよ。」
サラリーマン「そっか。」
謎の男「ま!また挫けそうになったら来てやってもいいぜ?」
サラリーマン「上から目線だなあ〜」
謎の男「すまんすまん〜」
サラリーマン「ま、そうならないようにするわ。」
謎の男「うん。信じてる。」
サラリーマン「おう。」
間
謎の男「じゃあ、元気でな!」
謎の男が去っていく。
どこか憑き物が落ちたような表情のサラリーマン。
サラリーマン「なんとかなるさ。」
~完~