『純愛のカクテル』
・所要時間約6分半
・登場人物
店主(♂)…バーのマスター。客に密かに恋している。
客(♂)…バーの常連客。いつも失恋してやけ酒している。
バーミュージックが流れる店内。
カランカランと扉の閉まる音。
客「マスタぁ〜」
店主「はいはい。」
客「また振られちゃったよ〜」
店主「その話、今日何回目ですか……。」
客「だって〜」
店主「もうお店閉めましたからね。」
客「え〜」
店主「気にせずゆっくりしてください。」
客「マスターありがとう〜」
店主「いえ。」
客「マスター聞いてよぉ〜」
店主「はい聞きますよ。」
客「その前にもう1杯!まだまだ呑むぞ〜!」
店主「全く……何飲みますか?」
客「とびっきり強いので!」
店主「はい。」
店主カクテルを作る。
店主「どうぞ。ソルティドッグです。」
客「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙あまじょっぱいぃぃ……。」
店主「失恋の味ですね。」
客「定番すぎるし、度数高くないし!何でよマスタぁ〜」
店主「今日は、飲み過ぎですよ。これくらいにしておきましょう。」
客「ええ〜」
店主「その代わり、話は沢山聞きますから。」
客「マスタぁ〜ありがとう〜」
店主「どういたしまして。それで、相手の子にはなんて振られたんですか?」
客「え〜なんか、「貴方は頼りがいがないから」ってさあ言って振ってきて〜なんでぇって。僕ってそんなに頼りがいないかなあ。」
店主「そうですね……。」
客「やっぱり、そうかあ。」
店主「いえ……。」
客「なんですかぁハッキリ言ってくださいよぉ。」
店主「頼りがいがないというか、守りたくなりますよね。」
客「えぇ〜なんですかそれ〜」
店主「いつも酔っ払ってるし、振られてるし。」
客「それは……そうですけど……。」
店主「凹まないでくださいよ。悪くないじゃないですか。守りたいって思われるの。」
客「そう言ってくれるのマスターぐらいなんですけどぉ。」
店主「わたしだけ……ですか。」
客「あーあ!どうしたら愛されるんだろう。愛されたいよお。恋人欲しいよお。」
店主「そうですね。もっと身近なところに愛を求めたらどうですか?」
客「身近?いるかなぁ。」
店主「灯台もと暗しと言いますからね。」
客「いないいない!あ〜このまま孤独死だ〜」
店主「そんな簡単に死にませんし、死なせませんよ。」
客「やだ。マスターかっこいい。」
店主「ほんとに、あなたって人は……。」
客「なんですかあ。どうせダメダメだって言うんでしょ〜仕事できないしモテないし呑んだくれだし〜」
店主「否定はしませんが、頑張ってる自分をもっと認めてあげてください。」
客「否定しないんですか!」
店主「そこじゃなくて、わたしはあなたが頑張ってるんだって言ってるんですよ。」
客「そっか〜ふふふ!嬉しい!」
店主「……ひとたらしですね全く。」
客「え?たらし?」
店主「いえ……なんでも。」
客「いま、たらしって言ったよね!?ねぇ!なんで!そんなことないですよ!」
店主「はいはい。」
客「オトナだなあマスターは。僕って子どもっぽいよなあ。」
店主「そこが魅力ですよ。」
客「……なんか今日マスターめっちゃ褒めてくれると言うか肯定してくれると言うか。」
店主「……いつもですよ。」
客「そうかなぁ。なんか今日マスターいつもとちょっと違う!」
店主「どこが違いますか?」
客「ん〜なんか甘い!全体的に!」
店主「甘い?」
客「雰囲気?かな?なんか優しい。」
店主「……わたしも、まだまだですね。」
客「え?なにがですか?」
店主「まぁ、バレでもいいんですけどね。」
氷のカランという音が鳴り響く。
客「え?」
店主「飲み物なくなりましたね。新しいの作りますよ。」
客「え、はい。え?今のが最後の1杯じゃなかったんですか?」
店主「いいですから。」
客「……はい。」
カクテルを作る音。
店主「どうぞ。」
客「ありがとうございます。」
カクテルを飲む。
客「お、美味しい。これってなんていうカクテルですか?」
店主「ビジューというカクテルです。」
客「びじゅー?」
店主「宝石という意味のカクテルですよ。」
客「へぇ〜でも、なんでこのカクテルを僕に?」
店主「…………。」
客「な、なんで黙ってるんですか……?」
店主「……宝石を渡すという意味、あなたは分かりますか?」
客「え?」
店主「あなたが初めてこのBARに来た時のこと覚えてますか?」
客「1年ぐらい前ですかね。」
店主「そうちょうど1年前。わたしの作ったカクテルを美味しそうに嬉しそうに飲んでいるあなたを見て、思ったんです。」
客「……はい。」
店主「この人の笑顔を守りたいって。」
客「……え。」
店主「そこからの1年間ずっとあなたが喜んだり傷付いたりするのを見てきました。あなたにはずっと笑ってて欲しい。」
客「マスターそれって……。」
店主「さ、今日はもう帰りますよ。」
~完~