『壊れた砂時計』


・所要時間約10

・登場人物

綾華(あやか)()…25OL 有里恵の唯一の友人

有里恵(ゆりえ)()…25OL 綾華の友人の1人。



綾華と有里恵が喫茶店にいる。

気まずいふたり。


綾華「……久しぶりだね!」

有里恵「……そうだね。」

綾華「高校の卒業式ぶりかな〜……って、それは、さっき待ち合わせした時にも言ったか……!あはは……。」

有里恵「……。」

綾華「あー……えーっと……。」

有里恵「……。」

綾華「有里恵ってなんの仕事してるんだっけ?」

有里恵「……IT系。」

綾華「へぇ〜!すごいね!」

有里恵「綾華は?」

綾華「わたしはね、広告系って言えばいいかな〜色々としてるよ!」

有里恵「……そっか。」

綾華「うん!」


ふたりに沈黙が流れる。


綾華「あ〜……。あ!この間ね、ネイル新しくしたんだ〜初めて行ったサロンだったんだけど、雰囲気も良くって!また行こうかな〜」

有里恵「そうなんだ。いいね。」

綾華「うん!あ、今度有里恵も一緒に行く?」

有里恵「うちの会社ネイルとかしちゃいけないから。」

綾華「あ、そっか〜……。」

有里恵「なんかごめん。」

綾華「全然!いいのいいの!こっちこそ急に呼び出して、なんかこんな感じで、ごめん。」


再び沈黙。

有里恵が口火を切る。


有里恵「ねぇ。」

綾華「ん?」

有里恵「なんで、わたしを呼び出したの。」

綾華「……あ〜……。えっと、ね。うーん、えっと。」

有里恵「うん。」

綾華「単刀直入に言うね……わたし、有里恵と仲直りしたくて。」

有里恵「そっか。」

綾華「……だめかな?」

有里恵「なんで、いまさら仲直りしたいの?」

綾華「え?」

有里恵「もう卒業して、7年は経つんだよ?今更じゃない?」

綾華「……そうかもしれないけど……。」

有里恵「なに?」

綾華「最近ね。やっぱり有里恵は、大事な友だちだなって思ったから……。」

有里恵「最近?」


綾華がスマホの画面を有里恵に見せる。


綾華「ほら!この写真見て!懐かしくない?ふたりで撮ったプリクラ!」

有里恵「……。」

綾華「この写真、インスタで見つけてさ。」

有里恵「それで、わたしのこと思い出したってこと。」

綾華「それも、あるし、ずっと気になってたんだよ。」

有里恵「ずっと、ね。」

綾華「うん!ずっとだよ。」

有里恵「でも、さっき「最近」って。」

綾華「それは、きっかけに過ぎないというか……。」

有里恵「7年間なんの音沙汰もなかったのに?」

綾華「……。」

有里恵「むしろなんで今まで連絡しなかったの?」

綾華「……あんな別れ方したから、なんか……その……。」

有里恵「わかるよ。気まずいの。」

綾華「……うん……ごめん。」

有里恵「別に。もう終わった話だし。」

綾華「……!ありがとう!」

有里恵「でも。」

綾華「でも?」

有里恵「仲直りするとは言ってないから。」

綾華「……。」

有里恵「わたし、仲直りとかする気ないし、もう関わらないでくれない?」

綾華「……。」

有里恵「はい。これコーヒー代。じゃ。」


有里恵が立ち去る。

回想シーンに入る。

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チャイムが鳴る。

高校3年冬のふたり。

有里恵が綾華に話しかける。


有里恵「綾華。」

綾華「ん?お!有里恵〜どしたの?」

有里恵「ちょっと勉強教えて欲しくて。」

綾華「そっか。有里恵一般入試だもんね。いいよ!」

有里恵「ありがとう。」

綾華「いえいえ!」


携帯の着信音。


綾華「あ!ちょっと電話!ごめん出るね!」

有里恵「うん。」

綾華「もしもし。あ!そっか今日か!うん。今学校はおわったところ。うん。うん。わかった。あとで!」


綾華が電話を切る。


綾華「……ごめん!今日遊ぶ予定入れてたんだった!また今度でもいい?」

有里恵「……そっか。いつなら、大丈夫?」

綾華「明日は教習所あるし……明後日は、美容院行って……うーん。」

有里恵「……いいよ。」

綾華「……え?」

有里恵「……もういい。自分でやる。」

綾華「そんな、冷たい言い方しなくても。」

有里恵「冷たいのは綾華じゃないの?」

綾華「え?」

有里恵「勉強、断られるの何回目?」

綾華「……。」

有里恵「いいよね。推薦で合格出来て。元から勉強出来るから、わたしの気持ちなんてわからないでしょ。」

綾華「……なにその言い方。」

有里恵「ほんとのことじゃん。」

綾華「わたしだって、努力したんだよ?僻まないでよ!」

有里恵「僻んでない。」

綾華「僻んでるよ。自分が勉強出来ないの分かってるなら、身の丈にあった大学行けばいいじゃん。」

有里恵「……。」

綾華「無理する意味がわからないよ。わたしには。」

有里恵「わたしだって分かってるよ!でも、わたしは……。」

綾華「もういい?わたし行かなきゃ。」


立ち去る綾華。

回想シーンが終わる。

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後日、綾華宅。

綾華が再度、有里恵を呼び出したのである。


綾華「有里恵。今日は、来てくれてありがとう。」

有里恵「……。」

綾華「もう会ってくれないと思った。連絡も取れないんじゃないかって。」

有里恵「……。」


気まずい間。

綾華が口火を切る。


綾華「……有里恵!」

有里恵「……なに?」

綾華「やっぱり、わたし。有里恵と友だちでいたいよ。」

有里恵「この間、言ったでしょ。無理だって。」

綾華「じゃあ、なんで今日来てくれたの?」

有里恵「……。」

綾華「有里恵にも、ちょっとは仲直りしたい気持ちあるのかなって。」

有里恵「……1個聞いていい?」

綾華「うん。」

有里恵「なんで、わたしと仲直りしたいの?」

綾華「それは、この前言ったみたいに写真見つけて……。」

有里恵「(遮る)そうじゃない。」

綾華「……え?」

有里恵「そんなことで、連絡して欲しくなかった。そんな軽い理由で仲直りしたいって思ったなんて知りたくなかった。」

綾華「……。」

有里恵「今日は、それを伝えに来た。」

綾華「……なんで、そんなに突き放すの?」

有里恵「なにが?」

綾華「あの時のことは、もう過去のことだって言ってくれたでしょ?仲直りさせてよ。」

有里恵「仲直りは出来ない。」

綾華「なんでよ!有里恵にとって、わたしは唯一の友だちだったじゃない。その友だちをあの時の喧嘩だけで突き放す理由が分からないよ!」

有里恵「……そういうところ。」

綾華「……。」

有里恵「そういうところだよ!人の気持ち考えないで!わたしがあんなに受験勉強がんばってた理由だって知らないでしょ?」

綾華「……え?」


間。

有里恵、毅然とした笑みを浮かべる。


有里恵「……わたし……本当は、綾華と同じ大学に行きたかったんだよ。」

綾華「……え?」

有里恵「約束したじゃない。」

綾華「約束……?」

有里恵「……やっぱり忘れてる。」

綾華「……。」

有里恵「高2の夏休みに……。」


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回想シーン。

高校2年生の夏休み。

セミの鳴き声が響く。


有里恵「ねぇ、綾華、志望校決めた?」

綾華「わたしね〜もう決めたんだ!ここ!」

有里恵「早いな〜わたしまだなんだよね。」

綾華「そっか〜」

有里恵「なかなか決められなくて。したいこともないし。」

綾華「うーん……。」


間。


綾華「あ!じゃあ、わたしと同じ大学にしたら?」

有里恵「え?」

綾華「同じ大学行こうよ!そしたら、ずっと一緒にいれるよ!」

有里恵「え……。」

綾華「うん!そうしよ!楽しそ〜!ね?」

有里恵「……うん!」


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回想シーン終わり。

淡々と話す有里恵。


有里恵「わたし、あの時すごく嬉しかったんだよ。」

綾華「……。」

有里恵「合格通知見せて「ほら!約束通り同じ大学だね!」って言いたかった。」

綾華「……。」

有里恵「結局、不合格だったんだけどね。」

綾華「……そうだったんだ……。」

有里恵「そうだよ。それに、友だちがほとんどいないわたしに、あんなこと言ってくれるの綾華しかいなかったから。」

綾華「……ごめん。」

有里恵「いまさら、もういいよ。」


綾華が泣き始める。


綾華「……ごめん!ごめんね有里恵。」

有里恵「……もういいってば。」

綾華「……わたし、有里恵を傷つけるつもりなかったの。」

有里恵「だから、もういいって。」

綾華「……。」

有里恵「失った時間は戻らないんだから。」

綾華「……有里恵。」

有里恵「じゃあね。」

綾華「有里恵!」

有里恵「さよなら。楽しかったよ。ありがとう。」


~完~