『君の乳輪』


・所要時間約6

・登場人物

幸せで脳天気。女とは久しぶりの再会。

何か男に思うところがある。



夜のドライブ。

男女が仲睦まじく話している。


女「今日は、ありがとう!なぁんか久しぶりにお腹抱えて笑っちゃった!」

男「楽しそうなおまえを見てるとこっちも笑顔になるな。」

女「何それぇ。」

男「いや、ほんとさ。」

女「ふふふ。ニヤニヤしてて面白い。」

男「んだよ。面白いって。」


お互い柔らかく笑い合い、少しの間。


男「なぁ。おまえ。幸せか?」

女「なぁに〜どしたの急に。」

男「いや、俺は、幸せだなあって。」

女「ん〜?幸せなの〜?」

男「ああ。俺、幸せだよ。」

女「そっかそっか。」

男「なぁ。おまえは、幸せなのか?」

女「う〜ん……幸せだよ?」

男「例えば?」

女「え、そうだなあ……例えばって言われると難しいね。」

男「じゃあ、俺の幸せ見せてやろうか?」

女「え、やった!みたいみたい!」

男「ほら。」


男が乳輪を見せる。


女「……え?なんで乳輪?」

男「俺の乳輪、デケェだろ?」

女「…………う、うん。」

男「この乳輪見るとな、ワクワクするんだよ。」

女「……ワクワク……。」

男「よぉく見てみろ、この乳輪。白くも黒くもない。まるで、優柔不断かつ、どっちつかずな俺みたいだろ?そんな人間性までも現している直径5.5センチの俺の乳輪。これから、俺はどうなるんだろう。どんな人生を送るんだろう。どんな乳輪になっていくんだろう……そう思うとワクワクすんだよ。」

女「……それが、幸せ……なの?」

男「ワクワクすること考えてたら、幸せだろ?」

女「……そう……だね。」

男「最近、この乳輪に愛着湧いちゃってさ。いいよな。こいつ。」

女「……そうだね。」

男「5.5センチっていう大きさもいいよな。俺の広い心を表現してるかのようだ。」

女「5.5センチ……か。」

男「ああ。5.5センチさ。デケェよな俺の乳輪。」


男の運転する車は、女の家の近くに着く。


男「ほら、着いたぞ。」

女「……うん。」

男「ん?どうした?降りないのか?」

女「……もうちょっと話さない……?」

男「どうしたんだよ。そんな神妙な顔して。」

女「気にならない?わたしの幸せ。」

男「お!教えてくれるのか。おまえの幸せ。」

女「いいよ。」

男「おう。」

女「……でも。」

男「ん?」

女「……その前に、ちょっと、わたしの話聞いてくれる?」

男「ああ。いいよ。」


女が意を決して話し出す。


女「さっき、乳輪見せてくれたでしょ?」

男「ああ、これ?」

女「あ、見せなくていいんだけど。」

男「俺のビックニップル。」

女「そう、そのニップルのさ。平均サイズって知ってる?」

男「ん〜……いや?」

女「そうだよね。あのね、男性は、2.8センチ。女性は3.8センチが平均なんだって。大きい人だと10センチを越す人もいるらしいよ。」

男「あ、じゃあ、やっぱり俺の乳輪デケェ方なんだな。」

女「そうだね。乳輪の色についてなんだけど、薄ピンクの乳輪。これは血管が集中してるからピンクなの。小さい頃は薄ピンクの人が多いね。そのあと、薄ピンク色のままの人もいれば、黒ずむひともいるじゃん?それは、乳首・乳輪のメラニン細胞が活性化してメラニンが生成されて、黒ずんでるんだよ。」

男「く、詳しいな。」

女「(食い気味に)もっと、黒ずむ時期があってね。それは、妊娠中から出産直後なんだ。で、ホルモンが増加したり、授乳の刺激から守るためにメラニン色素が増えて黒ずみが増すの。」

男「ど、どうしたんだよ。」

女「(さらに食い気味に)あ、こんなに黒ずむんだって驚いたんだけどさ。セルフケア出来るって聞いて、はちみつヨーグルトも市販の美白クリームも試したの。それでもダメで……でも諦めきれなくて、ハイドロキノン・トレチノイン治療もレーザー治療もしたんだよ!?したのに……。」

男「……え?」

女「……。」

男「……え?したのに……?」


少しの間。


女「……わたしの幸せ見る?」


女が乳輪を見せる。


女「……黒いよね。わたしの乳輪。」

男「な、なんだよこれ……!?」

女「あなたと会うの本当に久しぶりだったよね。」

男「あ、ああ。」

女「1年ぶりかな。あの夜が最後だったから。」

男「……おい。」

女「あなたは言ったよね?これから、俺はどうなるんだろう。どんな人生を送るんだろう。どんな乳輪になっていくんだろう……そう思うとワクワクするって、愛着が湧くって……。」

男「……やめてくれよ。」

女「わたしはね。自分の乳輪を見てると、わたしの幸せってなんだろうって思うよ。幸せそのものを考えさせられるものだって。」

男「たのむよ。もう、やめてくれ。」

女「あなたには、きっと自由な未来があるんだよね?わたしの未来は、この乳輪になった時から決められたものなんだよ。もう変えられないの。わたしだけの人生じゃないの。」


男が泣き始める。


男「……俺にどうしろって言うんだよ……!!!」


間。


女「……ねぇ、あなたは、幸せ?」

男「……降りろよ。」

女「……あなたはそれでいいの?」

男「降りろって。」

女「わたし、どうしたらいいの?」

男「降りろ!!!」


男が強引に女を車から降ろす。

去っていく車。


女「……でも……わたしは、幸せだったよ。」


女のヒールの音が響く。

~完~