『おでん戦争』
・所要時間約8分
・登場人物
たまご…女。マドンナ崩れ。癇癪持ち。煮込みすぎて色黒気味。
牛すじ…男。ムキムキの脳筋。熱血漢。コンディションは良好。
こんぶ…男。地味でツッコミ役。売れないためやけくそ諦めモード。
エビフライ…性別不明。何故ここいるか分からない。それなのに自信満々。
客…最後しかセリフないから誰が適当にやって。
とあるコンビニの店内。
深夜。売れ残りのおでん達がいた。
たまご「ねえ。」
こんぶ「はい?」
たまご「あんた、どう思う?」
こんぶ「…なにがでしょう?」
たまご「そんなの決まってるじゃない。」
間。
たまご「この状況よ!!!なんで、たまごのわたしが売れ残ってるのよ!!!」
こんぶ「…えぇ…。」
たまご「なによ!!!なんなのその反応!!!おかしいでしょ!!!」
こんぶ「そ、そうですね…。」
たまご「ツヤツヤホクホクのこのわたしが!売れ残りだなんて客には天罰が下るわよ。」
こんぶ「あ、あはは…。」
たまご「ふん!これだから万年売れ残りのこんぶは。」
こんぶ「なぜ、僕が貶されたのでしょうか…。」
牛すじ「まぁまぁ!落ち込むなよこんぶ!」
こんぶ「牛すじさん、落ち込んでませんよ。別に。」
牛すじ「お?そうか!まぁな!あんまりクヨクヨしてるとつゆに溶けちまうぜ!」
こんぶ「いや、だからクヨクヨとかしてないです…。」
牛すじ「筋トレしようぜ!力こそパワー!」
こんぶ「いや、やめておきます。結び目ほどけるんで。」
牛すじ「ふん!ふん!ふん!ほら、一緒に!ふん!ふん!ふん!」
こんぶ「いや、やりませんて…。」
たまご「アンタら、うるさいんだけど。」
牛すじ「たまごも一緒にスクワットしようぜ!」
たまご「いやよ。脳筋のアンタと同じにしないでくれる?」
牛すじ「筋トレしたら、肌もキレイになるぜ?」
たまご「なによ!わたしが肌汚いって言いたいの!?余計なお世話よ!」
牛すじ「まぁカリカリすんなって〜」
たまご「カリカリじゃなくてホクホク!あ〜ぬるい。こんぶ!扇いで熱をちょうだい。」
こんぶ「僕は下僕かなにかですか。まぁ、扇がさせていただきます。」
たまご「あ〜あっついわあ〜いい感じよ。」
こんぶ「それは、よござんした。」
たまご「不服そうね。いてこますわよ。」
こんぶ「言葉遣いヤバいですね…。」
たまご「は?」
牛すじ「こういう時は、筋トレ筋トレ!」
たまご「うるさい。」
気まずい間。
こんぶ「あのぅ…。」
たまご「なに?」
牛すじ「どうしたこんぶ!」
こんぶ「いや、2人…いや2具とも気になってないのかなあって。」
たまご「なにがよ。」
牛すじ「なにがだ。」
こんぶ「…えぇ…嘘でしょ。あれですよあれ。」
たまご牛すじ「「ん?」」
エビフライ「やあ。気がついたかい?我の存在に。」
たまご「ずっと気付いてたわよ。」
牛すじ「俺も!」
こんぶ「じゃあ、なんで知らんぷりしたんですか!!!」
たまご「なによ。あんたもじゃない。」
こんぶ「僕は、触れる勇気なくて…。」
エビフライ「我、エビフライなり。」
間。
こんぶ「…はい。そうですよねぇ。ええ。それは分かってますよ。…なぜ?」
エビフライ「なぜ?愚問!我、人間の体内に入り込むためにここに来た!」
こんぶ「いやいやいや。分からん分からん。分からんですよ。」
エビフライ「そのためには、売れ残ってなどいられないのだ〜!!!」
こんぶ「話聞いてます?」
エビフライ「そこでだ!」
こんぶ「続けるんですね。はいどうぞ。」
エビフライ「うむ!皆には宣戦布告をしようと思う!」
たまご「宣戦布告?」
牛すじ「お〜なんだなんだ?」
エビフライ「ここにいる4人!否、4具!誰が1番に売れるか勝負なり〜!!!」
間。
こんぶ「…え?」
エビフライ「皆もここからはよ出たいだろう?このままだと…。」
こんぶ「このままだと?」
エビフライ「なぬ、ぬしらは知らんのか!!!廃棄という恐ろしい最終地点を。」
たまご「廃棄ですって!?」
牛すじ「俺ら、捨てられちまうのか!?」
エビフライ「左様!そこでだ!互いに切磋琢磨すべく、競うのだ!!!」
こんぶ「え〜…」
たまご「乗ったわその話。」
牛すじ「俺もだ。捨てられちまうなんてゴメンだぜ。」
こんぶ「えええ〜みなさん本気ですか!?このよく分からない衣ベッチャベチャのエビフライの言うこと聞くんですか!?」
エビフライ「我、エビフライなり。」
こんぶ「知ってますよ!!!」
たまご「我、たまごなり。」
牛すじ「我、牛すじなり。」
こんぶ「ちょっと!エビフライに毒されないでくださいよ!」
たまご「いいじゃないのよ。このまま何もしなかったら廃棄されるだけなんだし。」
牛すじ「そうだぞ、こんぶ。俺はここで終わりたくないぜ!」
こんぶ「え〜でも、どうやって勝負するんですか?」
エビフライ「簡単なり!次客が来たら各々アピールするなり!そして、買われたら勝ち。それこの世の理!」
たまご「いいわね。やりましょう。」
牛すじ「簡単でいいじゃねぇか。っしゃやるぞ!」
こんぶ「えええ〜やる気出ないなあ。」
コンビニの入店音。
エビフライ「お!好機が訪れたぞ皆の者!」
たまご「まずはわたしよ!!!」
たまご「さあ、ご覧なさい!このツヤッツヤのお肌!思わずかぶりつきたくなるでしょう?そして、味の染みた白身の中から出てくるホックホクの黄身!熱いって言いながら食べるのが粋でしょう?このおでん界のマドンナを食べずしてなにを食べると言うのよ!さあ、わたしを選びなさい!」
牛すじ「次は俺だな!行くぞ!」
牛すじ「見よ!ムキムキの筋!噛めば噛むほど味が染みでるぜ?あっさりとしたおでんの中にこってりとした油が食欲をそそる。そして、何より串に何本も刺さっているお得感!そう力こそパワー。肉を食わずして力は手に入らない!俺と一緒にパンプアップだ!俺を選ぶんだ人間!」
エビフライ「ほら、次はこんぶなり!」
こんぶ「えええ。」
こんぶ「えっと…。こんぶです。僕は、そのう。なんと言いますか…。シンプルイズベストと言いますか。そんなに取り柄はないんですけど、出汁の源というか、ええ。なんか、そんな感じです。」
こんぶ「はい。つぎは、エビフライさんですよ。」
エビフライ「うむ!」
エビフライ「我、エビフライなり!」
間。
こんぶ「え?それだけ。」
エビフライ「長ったらしいスピーチは嫌いなりね〜」
たまご「そんなことより!こんぶ!さっきの歯切れの悪いアピールは何だったのよ!やる気あんの!?」
こんぶ「えええ。そんなに言わなくても!」
たまご「だめだめ。ほんとにだめ。付属のカラシにもなれないわよ。」
こんぶの堪忍袋の緒が切れる音。
こんぶ「言いましたね?あーあ、もうキレた。もう我慢の限界。あのねぇ、言わせてもらいますけど、なんなんですかあなたの態度は!横柄で癇癪持ちで、いつまでマドンナ気取りなんですか!染み染み過ぎて色黒になってるし!そんなんじゃ誰も買いませんよ!!!」
たまご「はあ!?なによいつも大人しいくせに!わたしが売れないですって!?アンタより美味しいわよ!このオタンコナス!」
牛すじ「まぁまぁ、落ち着けって。筋トレしようぜ?」
こんぶ「牛すじさんにも言わせてもらいますけどね。筋トレ筋トレって暑苦しいですよ?ただでさえここ暑いんですから!あと!筋トレのし過ぎで油が浮いてきて臭いんですよ!あなたも売れ残りますよ!!!」
牛すじ「んだとぉ!?てめぇそんなこと思ってたのか!俺のこの上腕二頭筋にかなうわけないだろ?やんのかこらあ!!!」
たまご「牛すじうるさいわよ!わたしがこんぶと話つけんのよ!!!」
牛すじ「たまごこそ、引っ込んでろ!!!」
こんぶ「2具ともうるせぇ!!!全員で喧嘩だー!!!」
こんぶたまご牛すじ「「「上等だこのやろう!!!」」」
客「なんか全部煮崩れしてるなあ…。
すみません、やっぱ買うのやめますわ。」
~完~