『あなたが男だったなら。』


・所要時間約6

・登場人物

さえ()…バイ・セクシャル。大学4年生。ともみのことが好き。

ともみ()…レズビアン。さえの2個下。フリーター。さえとは友達だと思っている。

ふたりは、元サークル仲間。ともみは大学を中退している。



カラオケ店。

個室に、さえとともみがいる。

カラオケオールの最中。


ともみ「あ〜歌ったね。」

さえ「うん。」

ともみ「次なに歌おうかな。」

さえ「……うん。」

ともみ「なに、どうしたの?さえ。」

さえ「いいや。なんでもない。」

ともみ「さっきから変じゃない?」

さえ「そ、そんなことないよ!」

ともみ「ほんと〜?お腹でも壊した?」

さえ「ううん。」

ともみ「絶対、さっき飲んだフロートでお腹冷えたんでしょ〜」

さえ「ほんとに大丈夫!」

ともみ「え〜大丈夫かなあ。」

さえ「うん。大丈夫。」

ともみ「そっか。んじゃ次の曲……。」


ともみを遮るさえ。


さえ「……ともみ……!」

ともみ「え。なに?」

さえ「……いや。やっぱりなんでもない。」

ともみ「え、なになに!?気になるじゃん。」

さえ「……いや、ほんと、大丈夫。」

ともみ「そう?そしたら、次のきょ……。」


またしても遮るさえ。


さえ「ともみ!!!」

ともみ「わぁびっくりした!なに!」

さえ「あのさ。」

ともみ「な、なに?」

さえ「真剣な話していい?」

ともみ「い、いいよ?」

さえ「ずっと、ともみに言いたいことがあったんだけど。」

ともみ「な、なんでしょう?」


間。

振り絞るさえ。


さえ「……わたし、ともみが好き。」

ともみ「…………え。」

さえ「わたし、ともみのこと好きなんだ。」

ともみ「……え、それは友だちとして?」

さえ「……ううん。恋愛としての好き。」


間。

沈黙が流れる。

口火を切るともみ。


ともみ「……そっか。」

さえ「ともみに気持ち伝えたくて……!」

ともみ「うん。」

さえ「ともみが、どう思っているのか知りたくて……。」

ともみ「うん。」

さえ「……言っちゃった。」

ともみ「うん。」

さえ「ずっと悩んでたんだけどね。」

ともみ「そうだったんだね。」


気まずい沈黙。


ともみ「ねぇ。なんでわたしのこと好きなの?」

さえ「ともみ優しいし、かっこいいし、顔好みだし……わたしのこと受け入れてくれると思ったから……。」

ともみ「……なるほどね。」

さえ「うん。」

ともみ「わかった。ありがとう。」

さえ「うん。」

ともみ「でも、付き合えない。」

さえ「……そっか……。」

ともみ「うん……ごめん。」

さえ「理由聞いてもいい?」

ともみ「いいよ。」

さえ「なんで、付き合えないのかな。」

ともみ「……さっき、「受け入れてくれる」って言ったでしょ。」

さえ「うん。」

ともみ「それ。」

さえ「……え?」

ともみ「……さえ、わたしがレズビアンだって知ってたでしょ?」

さえ「……え、うん……。」

ともみ「知ってて、告白してきたんだよね?」

さえ「……え?」

ともみ「……わたしがレズだからって、いけるって思ったんでしょ?」

さえ「……そんなことないよ!」

ともみ「……うそだ。」

さえ「……。」

ともみ「じゃあ、わたしがレズじゃなかったら告白してきた?」

さえ「……それは……。」

ともみ「してないでしょ。」

さえ「……。」

ともみ「わたしがレズだってこと利用しないで。」


さえが泣き出す。


ともみ「……泣かないでよ。」

さえ「ともみだって……わたしのこと利用したじゃない。」

ともみ「……え。」

さえ「わたしの家泊まりにばっか来て……!」

ともみ「それは、わたしの家が……。」

さえ「わかってるよ!ともみの家庭が複雑なことは!」

ともみ「……。」

さえ「……じゃあ、なんでわたしだったの……。」

ともみ「……。」

さえ「…………なんで、あの時、抱きしめてくれたの?」

ともみ「……え?」

さえ「わたしが眠れなかったとき、ともみ抱きしめてくれたでしょ?」

ともみ「あぁ。うん。」

さえ「……なんで、抱きしめてくれたの……?」

ともみ「……それは……友だちとして。」

さえ「ズルいよ!!!」

ともみ「……さえ……。」

さえ「家の都合悪いからって私に頼って、気持ち弄んで。」

ともみ「……そんなつもりは!」

さえ「……そうだよ……。」

ともみ「……。」

さえ「……そんなに頼っておいて、抱きしめてくれて……それなのに……。」

ともみ「……ごめん。」

さえ「……ひどいよ……。」

ともみ「ごめん。」


ともみがカラオケ代をテーブルに置く。


ともみ「……これ、カラオケ代。」

さえ「……。」

ともみ「……これからも、「友だち」でいようね。さえ。」


ともみが個室から出ていく。

~完~